しなやかな貴金属

淀みのrhythmからなる雪隠

2023 春 短歌

6日遅れですがなんとか継続してます。春というとどうしても思い浮かぶ材料が桜ばかりになってしまうのがむつかしい。教養も、感性もだめなので。つまりは精進します。

 

1. 春一番杉の恋文あてどなくその眩しさに目を擦る君

2. 心機一転新大陸暦も貼り替え終わりの始まり

3. 移り気な母の行く末決めたのはいつどこの街の桜のトンネル

4. 華奢な手に夢をいっぱい詰め込んだ新入生に皐月這い寄る

5. 真夜中を抱いた季節に走るだけ暖かな色と大気に乗せられ

6. 滑空す家庭科室の紋白蝶丸い右目にそつとスケッチ

7. 春霞を傘を投げ捨て突き進む柔らかな雨を鎧に纏って

8. 青一面タコさんウィンナー鮭おにぎり鶏の唐揚げフライドポテト

9. 赫きもの冬を装い春を舞う我は澱めど暦は替る

10. 汗ばむ肺にキスする三秒前土の長閑を妊む右足

今日の散文 #6

1.

おまえが羨ましい。

音の鳴る方へ駆けてゆけばよいおまえの脚が。

 

おまえが羨ましい。

微かにふるえる音叉を浅ましくも切り裂いたおまえの手が。 

 

おまえが羨ましい。

わたしのすべてであった奇蹟を穿つおまえの目が。

 

おまえが羨ましい。

ことばを詠うためだけ用意されたおまえの、おまえの口が。おまえの口が!

しずかに湿布の匂いをはだけさせ、保健室にいたおまえのおんがくが!!!

 

わたしは知っているのだ。

常に新しいきみは、ひとの盲点をかき混ぜ、取り戻さないことを。

だから、静かな世界の中心で、全景の鏡面にて鈴を鳴らす。

きみの美しさを呪って。

 

おまえが羨ましい。

いつでも、いつでも羨ましいのだ。

正しくあろうとするとき、四肢の震えと思い出と、慟哭のヴェールを纏ったおまえが。

 

2.

地獄に落ちるとしたら先に逝きたい。他人の夢と比較せずにすむのだから、不幸せであるはずがないからだ。最も幸福に地獄を生きることができる私は、いつの間にか地獄自体の魂のステージをも上げてしまうのであった。何もかもを知らない天使たちは、ある意味で地獄があるから存在していると言える。悪があるから存在するということ。なぜなら主体的ではない、選択の余地のない善というのは絶対悪を誰かが代理してくれるからこそ価値を持つものだから。そしてそれらがなくなると天国のなかにまた地獄ができ、重なりながら分裂するのは自明だろう。知っているか悪からの下剋上。もはや悪人正機ですらない。わたしは、天使に知恵の実を食わせ主体的に絶望させるという海の向こうの物語で、天国が天国でなくなるときをいつでも待っている。だからともするならばつまり今、やっと、やっと創世記に出てくる蛇の気持ちがわかったと思います。

今日の散文 #5

すずめ

私の名前は雀 夕立の中の雀 ただノスタルジーに溺れ、君たちの定位ともいえる愛する組織にいれてくれないか?そこには、罵倒も、暴力も、ない ただ生きることがきらいな人が一生懸命生きようとしているところ、そういう場所です。つまり、空です。一緒に腰掛けるための初夏です!

今日の散文 #4

神の館

心臓の音を弾ませ、もちろん奏でられるのは命に支障あるていどのことなのだ

全ての色つきの言葉たち

夢幻に踏まずな洛陽神殿

まま、であれ

まま、であれ

まま、である

まま、ではなくなれ

青の接吻くろくなり進む火の玉明日には降ってくる雹

「ごめんなさい」

「必ず許します」 

「許してください ごめんなさい 本当にごめんなさい 許してください!」

「わかっています」

彼の誠意とカシミール色のグリフォンとの一致踊るように立つ。

今日の散文 #3

1.

最近,毎日同じ夢を見る。きつね色の空の下,視界いっぱいに広がるラベンダー畑を踏んづけて回る夢。一歩踏みしめるたびに,おれの大好きな,芳醇な紫色の香りが立つ。鼻の中に滞留したまことに美味な空気が沈み込まないうちに,また一歩,また一歩踏みしめる。いつも,そのときはそれが夢だとは夢にも思っていないけれど,この香りを途切らせてはいけないことだけはわかる。止まらない。どこにもつながらない,ただ花があるだけの部屋を,分裂しながらしながら歩く。あそこの丘までさえは助けたいと思うから,突き進むのだそして,倦怠未満宇宙以上が,途端にひらけた三日三晩,ついに脳が裏返るまで進むと,満足して,これもいつものことだが,起きるときは,必ず窓を向く。

 

2.

タングステンビリビリ教室の時間です。タングステンでビリビリするためには,タングステンを触ればいいのです。あらカンタン。これで授業を終わります。二限目は更級日記を触ってタングステンをビリビリするので,橋本先生の到着を待って帰還してください。あ,ごめんなさいいつも通りここから上に参ります。ご無沙汰しましたぴゅーーーー△

 

3.

揃いも揃って,静かな恐竜がおおいなあ。恐竜は常に骨粗鬆症ともいうが,大きな声で骨を鍛えておかないと,人生後悔するよ。くしゃみで大腿骨が割れるやつ,大科学実験でやってた。寡黙なかけっこなんて言語道断。走るならバカでかく叫んでからにしろ。それとね,カルシウム,カルシウムはいいぞ。カルシウムは骨を構成する物質なんだけど,必ずしも骨を食べて摂取する必要はないのが特徴。共喰いしなくて済むってことだね。お前らに倫理観があるなんて知らねぇけどな,ガハハ(sing gently)!

 

VOCES8 & Eric Whitacre: 'Sing Gently' Singalong - YouTube

今日の散文 #2

1.

きれいなものを食べれば、きれいになれると思っていました。だから、わたしはいつもきれいなものを積極的に食べました。5円チョコ、ティラミス、ミルクセーキ、カラメル、エンゼルフレンチ、あまおう。いつでも甘さは、きれいです。砂糖は、わたしを裏切ることはありません。毎日、正しく整理されて、一粒一粒が溶けて絡まり、細胞を愛してくれます。真っ白な、純潔に穢れのない愛は、すべてのきれいさを上回り、わたしを恍惚とさせます。夕立にざらめが降りました。舌を転がし、きれいなものをしっかりと受け止めます。必要とあらば、白と心中する覚悟です。であるからして、人知れず海に溺れた塩は醜く、生き物の善悪は食べてみるとわかります。甘ければ善、しょっぱければ悪です。もちろん、ほとんどすべての物の味はグラデーションですし、二元論で物事を捉えすぎるのはバカです。しかし、一般的に、しょっぱければしょっぱいほど、その生き物は醜く愚かだという傾向があると知られているのだけは、確かなことです。

 

2.

ひりつくような緊張感に耐えきれず、誰もいない部屋を飛び出した。空白には悪魔が住む。昔の日本人は、それを神様だとありがたがって、神社だかなんだかを建てて祀ったらしいが、なんと馬鹿げたことか。あの背筋が凍るような空白は、気まぐれさなど寸分もなく、ただただ厳格に、わたしを不快にさせるという規則だけを存在意義とした、悪性の魔物の仕業である。その悪魔には副業もあって、実は彼らは、人間の観測外でホコリを積もらせたり、ピカピカの透明なプラスチックをくすませたり、押し入れにしまったレトロゲームを勝手に進めたりしている。そういうふうに、人間のいないところで、悪魔はしょうもないいたずらを日々繰り返す。だから、大切なものを家の中でよく紛失したり、目を離すとすぐなくなるwiiのリモコンの電池などに心当たりがある人の家では、悪魔が活発に動いているということになる。つまり、期せずして空白に飛び込んだときの不快感は、悪魔の活動中に鉢合わせてしまったお互いの気まずさなのである。空き巣とやっていることは同じなのだが、奴らはお茶を濁す逃げ方を心得ていて、そろりそろりと、背中を見せず、後退りして、すっと消える。逃さず退治するには、自分の行動すべてを監視カメラで撮っておき事象を確定させること、悪魔に憑かれる前に大きな声を出せるようにボイストレーニングをすること、塩を撒くこと、毎日掃除をすること。結局のところ、繰り返される変わり映えのない日常が、一番効果的である。

今日の散文 #1

1.

ポパイの朝食は、いつも詫びしい。縮こまったソーセージ。干からびたベーコン。黒色の殻の卵。それらがつねに用意され、料理され、保存される。わたしたちの胃袋は、それらに最適化された存在で、空虚こそが空白に空腹であることを祈る哀れな子羊なのである。これはままごとではない。繰り返す。これはままごとではない。ままごとの先の、見えたら膨らませるべき空想のキッチンの瞬間のシヴィライゼーションこそが、食文化と唯一袂を分かつことのできる部族であることを理解し、そっと君は喪に沈んだ。

 

2.

キッチン消毒キッチン消毒!キッチンは常に消毒されていなければなりません!なぜなら、食中毒になる危険性があるからです。方法は問いません。熱湯で煮沸しても良いし、アルコールを使っても漂白剤を使っても構いません。とにかく、我々の神聖なる食事処にこびりつく"穢れ"を、一つ残らず浄化してください。時給は8000円です。大学生、フリーター、どちらも可。

※この求人は早いものがちにつき、早いものを採用します。

 

3.

限りなく睦まじい老夫婦を頭の中で喧嘩させてみる。不可能に思えるかもしれないが、私の方略はそれを実現させる。1日目。少しづつすれ違いを起こす。2日目。少しづつすれ違いを起こす。3日目。少しづつすれ違いを起こす。少しづつすれ違いを起こすとはどういうことかというと、例えば君に彼女がいたとする。たまたまその日は皿を落としてしまう日で、彼女お気に入りのマグカップを落とし、割る。そういう温度感の、その場では許される些細なやらかし。それを「縁起」レベルで調節していくと40年後ストレスでふたりとも死にます。